「作りたいもの」と「欲しいもの」の違いから始める ― 社会とエゴの往復を通じて
LEAGUE-4TH事前説明会

「作りたいもの」と「欲しいもの」の違いから始める ― 社会とエゴの往復を通じて

「目標なんてないと思ってたけど、そういう意味で、何か一つに絞るための目標が必要だなって」

二瓶
今日はASIBA Creative League 4thを支えてくれているバディ(※)の中から、加藤・山路・中條の3人に来てもらいました。いくつかテーマを用意してきたのでそれに沿った話を、沿ってなくてもいいんだけど(笑)、楽しくしていけたらと思います。
まず気になるのは「作り続けるために必要なもの」について。加藤くんはプロダクトだったり、中條は研究だったり、形は違えどみんな作るということに向き合い続けていると思うけど、作り続けるために何か意識してることがあるのか、それとも「いや、別に作ってるだけだけど」みたいな感じなのか、どうだろう。

※バディとは:問いと実践の往復を繰り返し、今もなお自分なりの世界観を持ち活動を拡大し続ける先輩達。プログラム内では、メンターとしてプレイヤーをサポートしつつ、苦しさも喜びも共に分かち合う仲間として伴走します。

山路
全部は網羅できないから一個言うと、自分の隣にもう一人いて、おもろいものをすぐ「ジャン!」って見せられることがでかいかな。今の会社はもう一人のデザイナーとタッグで、作ったものを「いいじゃんいいじゃん」って見せ合いながら走ってる感じなんだけど、それはSNSに投稿するだけじゃダメで、誰かに圧倒的に感動してもらわないと俺はそのサイクルが回らないんだよね。これまで自分がものづくりをしてきたのを振り返っても、最初は親、そこから友達になり、今はメンバーになり、みたいな。

二瓶
なるほどね。中條は研究が多いけど、ずっと一人でやってるイメージがあるよね。

中條
僕は逆に一人の方がやりやすいと思っています。クリエイティブな何かを社会の中で責任を持って進める時って、どうしても一人がちゃんと立っていないと突破できない部分があります。スタートアップだと一人に資本を集中させるとか、研究でも責任者を一人に定めるとか。だから自分は一人でやるようにしているんだけど、それだけだと楽しくないので、今日みたいに亀戸へ来て「こんな面白いことあって…」と皆さんとお喋りする時間もすごく大事にしています。

二瓶
前から気になってたんだけど、中條って何か自分の中で大きな目標があるの? それとも、その都度誰かとの会話から生まれてくる感じなのか。

中條
僕自身にはあまり目標はないです。あえて言うと「楽しく生きたい」っていう想いが根底にあるんだけど、自分のその「楽しく生きる」には「他人が楽しそうにしている」という前提がある気がしていて。だから研究でも、最初に対象者を決めてインタビューをして、その人の困りごとや求めているものを起点に考える、みたいなプロセスはすごく大事にしています。けど中條の人生として「これができたらゴール」みたいなものは今のところ何もない。お二人にはそういう大きな目標ってありますか。

加藤
僕も全然ないですね。スタートアップって最初は何か一つ目標を立てて、それに専念することが普通なんだけど、僕はそうやって事業を絞るということができないって最近分かってきて(笑)。どうしてもいろんなことに手を出したくなっちゃうから、もうこれを正解にするしかない、この状態をどうでっかく続けられるかをひたすら考えてます。普通にやったらシュリンクしてしまう状況に対して、いろんなプロジェクトで突破口を見つけながら抗い続けている感じです。

山路
多分この4人はみんなそうだけど、俺って2週間に1回は新しいことを思いついて、「どうしようこれやんないと寝れねえ、今の事業もういいや」みたいになっちゃうタイプで(笑)。でも、ただそれに従って新しいことに手を出し続けるだけだと何も成し遂げられないなってなったときに考えるのが、もしかしたら目標なのかもしれない。俺の中には、新しいものを作りたいというのと同じくらい、自分の思いついたイケてるものを実現させて、多くの人の手にそれを渡したいという想いがある。もともと目標なんてないと思ってたけど、そういう意味で、何か一つに絞るための目標が必要だなっていうのは最近感じていることかな。

二瓶
確かに、どこまでやりたいかで変わってくるのかなとは思う。とにかく新しいものを作り続けたいって言うんだったら意外と目標はいらないんだけど、それをもっと大きくしていくためには必要っていう。

山路
うん、俺は必要。散っちゃうからね(笑)。

二瓶
俺はどっちにも憧れちゃうんだよね。新しいことを試すのも大好きだし、同時にそれを着実に大きくしていかなきゃいけないと思ってる節もあって。その両方をできるような自分だったら楽しいんだろうなと思う。

目標なんてないと思ってたけど、そういう意味で、何か一つに絞るための目標が必要だなって

「今も絶対に『自分が欲しいものを作る』っていう基準は守り続けるようにしてる」

二瓶
次に話したいテーマが「マーケットインとプロダクトアウト」。マーケットインっていうのは既にあるクライアントや市場に合わせて商品やサービスを生み出していくスタンスで、逆にプロダクトアウトは自分が作りたいものを作って、それを頑張って売っていこうという考え方。山路がやってることはめちゃくちゃプロダクトアウトだと思うんだけど、マーケットインをあえてしてないのか、それとも結果的にそうなってるのか、どうなんだろう。

山路
大学3年生のとき、小学校の先生が忙しい中、消しゴムを彫って採点用のハンコを作ってるっていう話を聞いて。これはビジネスチャンスだと思って、レーザーカッターでスタンプを量産して売り出したら、それが数百万円単位で儲かったんだよね。この時は完全にマーケットインだったんだけど、感じたのが、マーケットインだとみんなに見えてるような課題にしかアプローチできないっていうこと。もっと内発的な思想を持って、より先を見据えた取り組みをするためには、すでにあるニーズに合わせにいくだけじゃないアプローチが必要だなと感じたんだよね。そうやって少しずつプロダクトアウトに変わってきたけど、今も絶対に「自分が欲しいものを作る」っていう基準は守り続けるようにしてる。ある意味で自分がマーケットであることを信じ続けているということかな。

中條
自分が欲しいものを作るっていうのは、加藤さんの指輪も一緒ですよね。

加藤
僕は銀粘土の3Dプリント技術を使って、誰もがデザインできる婚約指輪を作るという事業をやってるんですけど、そのきっかけになったのは、自分自身が婚約指輪を買う時に感じたカスタムの自由度の低さでした。僕もそうやって、基本的にはプロダクトアウトの事業が多いんですけど、逆にあえてマーケットインをやることで業界に深く潜り込めるという側面もあるのかなと思っています。例えば僕がずっと携わっているファッション業界だと、ある種の良い意味での素人発想は大事だけど、とはいえ縫製工場の工程的にどう考えても無理、みたいなこともあったりして。受託をやることでそういう実情を解像度高く知って、その後プロダクトアウトで一気に仕掛けるみたいなのを狙ってる感じです。

中條
僕はどっちの要素もある気がします。普段の仕事で設計するワークショップは明確にクライアントがいて、困っていることがあって、そこに対して自分の方法論でどう答えられるかをひたすら考える。だからマーケットイン的ではあるけど、同時に「自分がやりたいことをやって研究にしたい」というのが裏の目的としてあって、そういう意味ではプロダクトアウト的でもある。だから一言でプロダクトアウトと言っても、完全に自分のために作るというよりは、上手にマーケットと自分自身でモチベーションをすり合わせていくプロセスは、いずれにせよ必要じゃないかな。

今回、ASIBA Creative Leagueで提供する2種類の制作支援金の意図もそこにあると思っています。最初の10万円は完全にプロダクトアウトのためのお金で、それを使って自分のエゴや作りたいものを形にしていく。その後、それを社会と繋げていくプロセスの中で、ただただお金がない状態でマーケットインをやろうとすると疲弊していくし、自分がやりたくないこともやらなきゃいけない。そこで30万円を使って、「お金は払えないけどやってみたら」っていうぐらいの微妙なニーズに対してアプローチをしていく。実際、プロダクトでも会社でも、お金は払うほどじゃないけど困ってるターゲットっていっぱいいるじゃないですか。そういう人たちにちゃんと使ってもらって、フィードバックを得て、トラクションを作って。結果として自分のやりたいこととマーケットが求めるものの間でお金が繋がっていく段階になったら、Leagueが終わりっていう。

山路
30万円の結果として次の50万円を手に入れて、その50万円を使ったら次の300万円が手に入るっていう感じでね。それは株式でも何でもいいんだけど、とにかく信用に繋げていけばいい。スライド作ってピッチしてっていうお金の集め方じゃなく、ニーズに対して着実に応えることを繰り返しながらデカくなろうっていうのは、結構ASIBAっぽいスタイルだよね。

二瓶
ASIBAの他にもいろんな支援や助成金があって、もちろん参加者のみんなにもそれはどんどん使っていってほしいんだけど、アーティスト的になりすぎて、つまりプロダクトアウトに寄りすぎて「一回作れたから満足、また新しく作ろう」みたいになっちゃうのはもったいないなと個人的に思うんだよね。そういう意味では「一回作ったものでレバレッジを効かせて、次10倍のもん作ろうぜ」みたいなスタンスは、結構ASIBA的なんじゃないかな。レバレッジの効かせ方にはいろんな方法があると思うんだけど、その工夫がいかにクリエイティブであるかっていうことが大事になるんだと思う。

今も絶対に『自分が欲しいものを作る』っていう基準は守り続けるようにしてる

「建築だけじゃないね。プロダクトも、サービスも、意外と自分の声に騙されてる」

山路
あと「欲しいもの」と「作りたいもの」って全然違うなと思う。たぶんASIBAは欲しいものを作る場所であって、作りたいものを作り続ける場所ではない。どこかで「自分が欲しい」か「誰かが欲しい」っていうところに落とし込んでいかなきゃいけないんだと思う。

二瓶
わー確かに。

山路
そのときに「誰かが欲しい」っていう外的な欲求でスタートアップが生まれるのは、AIみたいに新しい技術がどんどん生まれてくる分野だと多いと思うんだけど、建築はそんなにすぐイノベーションが起きる分野じゃないから、「自分が欲しい」っていう内的な欲求が起点になりがちだなっていうのはASIBAを見てて思うことだな。

加藤
一個気になるんだけど、「自分が欲しい」って言っても、その自分自身が変わり続けて、明日は欲しくないかもしれないじゃないですか。

山路
あるある、変わる変わる。

加藤
けどそれはもう受け入れて?

山路
逆に加藤くんはどうなの?

加藤
これは本当に自分がやりたいことなんだろうか、「やってる自分を誰かに見せたい」っていう見栄なんじゃないかって、できる限り厳しい目線で考えちゃうかな。まだ見極めるのは難しいんだけど、一回でも自分の中で「これだ!」っていう熱量があったかどうかは絶対見てる。

山路
めっちゃわかるな。もしかしたら、ASIBAにおいて一番大きな問いは「自分が欲しいとは何か」かもしれない。建築で何か新しい事業を起こすとき、良さそうに見えるアイデアなんだけど実は自分は欲しくないとか、お金を払うまでじゃないみたいなことが結構あるし、自分もそれとずっと戦い続けてる。

加藤
建築だけじゃないね。プロダクトも、サービスも、意外と自分の声に騙されてる。

二瓶
今はいろんな環境が用意されてるけど、それは「欲しい」っていうものの解像度が粗いまま進むことができちゃうということでもあるよね。「作ってみたけど、実は自分は欲しくなかった」みたいな経験が俺にもあるし、多分みんなにもある。だからこそ、作り続けることで「欲しいとは何か」という問いに向き合い続けているんじゃないかな。