
【事務局インタビュー#4】 建築とグラフィックの関係を探る|デザイナー 曽根巽さん|ASIBA
ASIBA学生サポーターの角田です。今回のインタビューでは、ASIBA Creative Incubation Program 3rdのキービジュアルを作成された曽根巽さんにお話を伺いました。キービジュアルに込められた思いや領域を横断しながら活動される曽根さんのバックグラウンドに迫ります。
ドローイングの延長線上にグラフィックがある
── 本日はよろしくお願いします。簡単に自己紹介からお願いします。
曽根: 曽根と申します。学生の時には建築を勉強しておりまして、東京工業大学(現:東京科学大学)の学部と院を卒業しました。修士には、オランダのデルフト工科大学に留学をしました。2024年の春に卒業し、そこからフリーランスで建築設計とグラフィックをしています。個人での仕事と友人たちと立ち上げた出版のプロジェクト「Tabula Press」をやっていたりします。グラフィックという平面のものと建築という立体の関係を模索しながら制作を続けています。今年から、GROUPという建築のコレクティブに所属して活動を続けています。
── 建築が大黒柱にあるというイメージでしょうか?
曽根: そうですね。今回のASIBAもそうですが、グラフィックも建築の方と一緒にやることが多くて、そういう意味では、ドローイングの延長線上にグラフィックの活動があるというふうに捉えています。大黒柱かと聞かれると確かに、建築は主軸にありますね。
── 素人質問で申し訳ないのですが、ドローイングとはなんでしょうか?
曽根: 美術の文脈でドローイングというと、手の痕跡がわかるようなものを指すと思うんですが、建築でいうと図面のことですね。図面とか、コンセプトを示すようなものを指します。基本的に図面のことを英語で訳す時にドローイングというんですね。なので、基本的に建築に関わる平面表現のことを総称してドローイングって呼んでいます。 建築は最終的には立体物を作るんですが、表現としては最後まで二次元の表現をしているんです。業界の構造として、二次元の図面を建設現場に持っていく、という流れなんですね。なので、二次元の創造の割合って意外に大きく、そういう意味でグラフィックと接続していくようなところがあると思います。基本的にグラフィックもグラフィックの言語を駆使して平面を構成していくので、そういう意味では建築の図面っていうのとグラフィックってとても似ているんです。
デザインとアントレプレナー
── なるほど、とてもわかりやすく説明してくださってありがとうございます。アートとデザインの関係性についてどうお考えですか?
曽根: 基本的な僕の理解としては、建築はデザインの中に含まれていると思います。デザインという集合と、アートという集合があるとすれば、建築はデザインの方に包含されるということで話を進めますね。 デザインの日本語訳で、設計という言葉があります。その言葉の文脈で話すと、必ずしも美しいものだけがあるというわけじゃないと思っていて。作家の意図がないもの、例えば、ハウスメーカーの家も一応設計はされてはいます。設計をめちゃくちゃ突き詰めていくと陳腐さが目立ってしまうことがあると思うんです。データセンターやゴミ処理場とか。そういうものをカタカナにしてデザインと呼んだ時に、一番違ってくるのは作家の所在なのかなと思っています。作家の所在があるかどうかはデザインと設計の違いなのかなと思います。そして、作家の所在があるという点では、アートとデザインは似ていると感じます。 結構アーティストの方とお仕事をさせてもらうことが多いのですが、アーティストにはクライアントがいなくてデザイナーにはいるということには大きな違いがあると感じますね。基本、デザイナーはクライアントがいないと成り立たない職業なんですよ。建築設計もグラフィックデザインもクライアントが必要で。アートの枠組みは他者との関わりを前提としていないという点が大きく違いますよね。建築やデザインをやろうとした瞬間、もうすでに、自分に対して何かを与えてくれる人との繋がりを避けられないじゃないですか。他者と協働するかしないかで、デザインとアートは態度が異なっていると感じます。 スペキュラティブデザインっていう言葉が流行った時期があります。アンソニー・ダンという方が本を書いて一躍有名になったんですが、アートが実践してきたような考え方をデザイン方面でもう少し科学的に反映できないか、という問題意識がそこにはありました。アーティストは結果からのフィードバックを重視していて、悪く言えば飛躍があって、ただそこの飛躍をよく見てみると可能性が含まれているんじゃないか。これを設計という行為に組み込むことで、異なるビジネスのあり方を思考する、こういった文脈がASIBAの言うクリエイティブ・アントレプレナーにも通じるんじゃないかなと今話していて思いました。建築・デザイン・アートを横断するということはこのアントレプレナー的な思考と似ていると感じました。でも実は、実践的な水準についてはあまり言及されていなくて、なのでASIBAがこれからどうなっていくのかは興味がありますね。
作るのは奥行きと動き
── キービジュアルの作成にあたって込めた思いや意図を教えてください。
曽根: プログラム自体が7つのフェーズに分かれており、そのコアバリューみたいなものも各々であって、それぞれにそこで目指されているような目標が一個ずつ設定されているなというところがプログラムのいいところだと思いました。クリエイティブ・アントレプレナーっていうのを一発でやってくださいと言うのは難しいけれども、ASIBAが細分化して小分けで出していくことで、最初わからない人でも、一個ずつクリアしていくことができる。そういう構成がいいなと思っていました。そして一個一個のステップにイメージやテーマがあって、各回にこめられた価値とかイメージを僕なりに解釈して繋ぎ合わせたっていうコンセプトになっています。 例えば、「当事者性を発掘する」だったら、一個の点から運動が始まって次へ放射されていくようなイメージだったり、「問いと実践のサイクル」であれば、何度も同じところを通るけれども前には進んでいるようなグラフィックにしました。建築では部屋は設計できてもその中の運動を表現するのは難しいですが、グラフィックではそれができると思い、たくさんの運動が一つの部屋に収まっているような状態を目指してキービジュアルを制作しました。だから意図的に全ての運動が長方形の中に収まっているように見せています。運動が充満した部屋というイメージで作成しました。
── デザインする際に自分の色を出すように気をつけていることやモットーはありますか?
曽根: 建築・グラフィックどちらもやっているのが割と特殊でして。平面と立体の関係がグラフィックに必ずあるような気がします。インキュベーションのものもそうですが、平面の中にも奥行きがあるような平面を意識して作っていますね。これを自分の手法として確立できたらいいなと思っています。
既存の体制に向き合う
── デザインをする際に、参考にしているロールモデルの方とかいらっしゃるんですか?
曽根: 実はグラフィックを専門で勉強していたわけじゃないので詳しくなくて。なので、建築的な考え方をグラフィックに落とし込んでいます。建築から落とし込む方が、自分が勉強してきたことなので、圧倒的に知識量があるのでそこから考えた方がうまく制作ができますね。グラフィックからグラフィックを考えたことはないですし、難しくてできないかもしれないです。スタイルを真似するだけならできるかもしれないんですが。 ただ、実はもっと建築とグラフィックを繋げてくれるようなレファレンスってあるはずで。建築的なグラフィックも、グラフィック的な建築も絶対どちらも存在していると思っているのでそこは勉強していきたいところです。 建築には建築の秩序や言語体系が存在していると考えているんですが、そういうものをもっとシンプルに提示できると思うんですよね。今、異なるメディア間の交流が起こりすぎて、先人から学ぶ身としては、何がどこから生まれたのかを純粋に見せてあげる必要があると思うんですよね。
── ASIBAに対してどのような期待をしていますか?
曽根: Discordに招待していただいてまず思ったのは、すごくみんな熱意と当事者性を持って活動してらっしゃるところです。もはや異常性を感じるくらいすごいなと思って見ていて(笑)。とにかくエネルギーがある集団だなという印象です。建築発のアントレプレナーという側面から考えると、基本的に建築の設計者やグラフィックデザイナーはクライアント待ちの行動指針になりがちなんですが、ASIBAはクライアントを自分たちから見つけてくるじゃないですか。おそらくそういうのが、仕事の順序を変えていくんじゃないかと思って見ていますね。こちらにイニシアティブがある企画に他の人たちを巻き込んでいくっていう順番でプロジェクトを考えられたら、いいものになる確率って高くなると思うんです。クライアントの意見を優先しつつ、自分の持ち味をいかに出すかという姿勢が今の業界の基本的なな姿勢だからこそ、そうではないASIBAの仕事の取り方は業界の構造自体に介入していけるような可能性があるんじゃないかなと思います。 お金や土地を持っている人の方が権力が大きくなってしまうことにどう向き合っていくのかはとても気になっています。面白い動き方をしているなと思って見ています。何もないところからプロジェクトを生み出す力がある気がします。
── ありがとうございました!